Another Story

ハルメニアの笑顔

02

 その日、シャルロットが目を覚ますと、なぜか柔らかい羽毛の布団の上に、ぽつんと橙色のかぼちゃが置かれていた。目が点になる。どうしてかぼちゃがこんなところに?
 身を起こし、おそるおそるそれに手を伸ばせば、あと少しで触れるか否か、というところで明るい音を奏で出した。魔法だ。
 そっとそれを引き寄せて、中をあけて見れば、ひらりと一枚羊皮紙が入っている。取り出して眺めればそこにはウィルとメアリの字が連なっていた。几帳面なメアリの字と、滑らかなウィルの字。書いてあることは一つ。
「ダンスホールでお待ちしています……?」
 読み上げれば誰もいない部屋にぽつりと言葉が落ちた。もうずっと一人の部屋。今はもう寂しさなんて覚えないけれど、当時はひどく寂しく感じていた。
 どういうことだろうと疑問を覚えつつ、かぼちゃをベッドの上に置いて服をクローゼットの中から取り出そうとして、手が止まった。クローゼットの中には一つの衣装。それは本来のドレスではなくて、柔らかな生地のシャツと、すらりとしたパンツ。いったん取り出してポケットが膨らんでいることに気がついて、取り出せば、また二人の字が現れた。
「これを着て、下に置いてあるブーツと、帽子をかぶってくださいね」
 そこではっとかぼちゃを振り返る。流れ出した曲はオクタヴァーレの祝日。そこですべてに合点がいって、凍り付いていた表情に初めて違う色が灯る。
 シャルロットは二人の指示通り、シャツを着て、パンツに靴下、それからブーツを履いて、赤いリボンを結ぶ。胸元のポケットには琥珀色の雪をかたどった硝子を一つ。仕上げに少年のような帽子をかぶって部屋を飛び出した。
 あの雪の日以来、なかった楽しさで、彼女は足を逸らせる。早く、早く行こう。

    ――――◆――――◆――――◆――――◆――――

 ダンスホールの扉を開ければ、鮮やかに彩られた世界が広がった。空中を魔法で生み出された優しい光が舞い踊る。思わず歓声を上げれば、ずっと奥にいた二人の大事な存在が、大人たちよりずっと早くこちらに気がついて駆け寄ってきた。
「シャルロット様!」
「ロッティ!」
「……二人が、考えてくれたの?」
 戸惑いながら尋ねれば、こくんと彼らは元気よくうなずいた。祈るような眼差しに初めて気がつく。そうか。
 いつの間にか彼女はゆっくりと笑っていた。光が灯ったような優しい温かい笑顔に、二人の子供は目を見開く。シャルロットのその言葉に。
「ありがとう、二人とも。大好きよ」
 ぎゅっと主人である彼女に抱きついたのだった。

 あなたの笑顔が見たいから。